金融経済新聞1990年(平成2年)5月28日(月曜日)声泉

 中小企業の経営者が、「あの時の銀行支店長さんにはいつも感謝している」と言う。
「あの時のあの言葉が私の商人としての宝になった」とも。

 銀行支店長の言葉というのは、「お宅の会社には一円も貸せません」。
以来、この中小企業の経営者は、この言葉を肝に銘じた。

 「常に発展を目指し、同時に不安を探し、それを克服してから前進する。
この"間"が取れるようになった」。だから「あの銀行支店長さんには本当に感謝している」

 『損をする信は信にあらず、得をする信こそ真の信なり』 ──、伊達政宗の遺訓を好んで使う。
これも「一円も貸せない」支店長の言葉の"たまもの"かもしれない。

 「困った時に、本当に助けてくれたのは銀行ではない」という言葉をよく聞く。
この役員氏の場合も「一番先に助けてくれたのは、納入業者さんだった」

 この時、もちろん信金にも行ったが、「銀行さんがそう言っているのでは」と二の足を踏んだ。
だから「本当にあの時の支店長さんの言葉は大きかった」

 いままではこの企業も業績好調。「貸してくれない」銀行とも取引している。
だからといって、この役員氏は過去のこともはっきり口に出す。言われる銀行側もそれをしっかりと受けとめている。

 「耳の痛いことでも、われわれとしては真摯に聞く耳をもたなければならない」とは、その銀行頭取氏。お互いビジネス。
でも、言うところは言い、聞くところは聞く。それこそ「地域密着」の原点。